スーパーで走り回る子ども。あなたは、こう言っていないだろうか。
「走らないでって言ったでしょ!」 「いい加減にしなさい!」 「ダメって何度言えばわかるの!」
そして、子どもは泣く。周りの視線が痛い。自己嫌悪に陥る。
「また怒ってしまった…」
でも、翌週、スーパーに行くと、子どもはまた走り出す。
なぜだろう。なぜ、何度叱っても、同じことを繰り返すのだろう。
答えは、子どもは「怒られた」「叱られた」という印象を受けて反射的に行動を変えているだけ。大人が本当に伝えたい「食事中は座るのがマナー」だということが、なかなか伝わらず、互いにわかりあえないということが起こります。
つまり、叱っても、何も伝わっていないのだ。
マリア・モンテッソーリ(1870-1952)。イタリア初の女性医師であり、世界的な教育者。彼女が100年以上前に確立した「モンテッソーリ教育」は、今も世界中の親たちに支持されている。
モンテッソーリ教育では、叱ってしつけることや、過度に褒めて伸ばすことは極めて効果が低いと考える。 そして、大切なことは、「なぜこのような行動が必要なのか」、時に「なぜこのような行動はいけないのか」を自分で判断して行動する力を育んでいくことだ。そのためには、叱ることでその場をおさめるのでなく、子どもに行動の善悪や、年齢に合わせて理由を「伝える」関わりが必要である。
「叱るな、伝えろ」
これが、モンテッソーリ教育の核心だ。
今回は、100年の時を超えて今も輝き続けるモンテッソーリの教えから、子どもの心に届く「伝え方」を学んでいこう。
世界初の女性医師が発見した、子どもの「真実」
マリア・モンテッソーリは1870年、イタリアに生まれた。当時、女性が医師になることなど考えられない時代だったが、彼女は強い意志で医学部に入学し、イタリア初の女性医師となった。
医師として知的障害児の治療に携わる中で、モンテッソーリは重要なことに気づいた。
子どもは、生まれながらに「自分で成長する力」を持っている。
大人が教え込むのではない。子ども自身が、環境から学び、自ら成長していく。大人の役割は、その成長を「援助」することだ。
この発見が、モンテッソーリ教育の基盤となった。
そして、モンテッソーリ教育では、こどもも人格を持った一人の人間であるため、こどもと大人が互いに尊重し合える関係性を築くことを大切にしています。そのため、目下の者に対して行う「叱る」という行為は必要ないということがわかります。
子どもは、「叱られる対象」ではない。「尊重される人間」なのだ。
「叱る」と「伝える」は、何が違うのか
例えば、食事中に立ち上がっているこどもに対して「座りなさい!」と叱ったとする。こどもはその場で座るかもしれませんが、実はこのときこどもは「怒られた」「叱られた」という印象を受けて反射的に行動を変えているだけ。大人が本当に伝えたい「食事中は座るのがマナー」だということが、なかなか伝わらず、互いにわかりあえないということが起こる。
では、どう「伝える」のか。
「ご飯を食べているときは座ってください」「お尻を椅子につけて座ろうね」など、「伝える」というコミュニケーションで線引きを示していくようにしていきたいのです。そうすることで、こどもを一人の人間として尊重することにもつながり、親子の間には上下関係ではなく、信頼関係が育まれていきます。
「叱る」vs「伝える」
| 要素 | 叱る | 伝える |
|---|---|---|
| 言葉の例 | 「座りなさい!」「ダメ!」 | 「ご飯の時は座ろうね」 |
| 子どもの反応 | 怖い、叱られた(反射的) | なぜそうすべきか理解 |
| 効果 | その場は止まるが繰り返す | 理解して行動が変わる |
| 親子関係 | 上下関係、恐怖 | 信頼関係、尊重 |
| 子どもの成長 | 外発的動機(叱られたくない) | 内発的動機(自分で判断) |
この表が示す通り、「叱る」と「伝える」では、子どもの成長への影響が全く違う。
スーパーで走る子に、何と言うか
冒頭の場面に戻ろう。スーパーで走り回る子ども。
多くの親は、こう叱る。
「走らないでって言っているでしょ! いい加減にしなさい!」
しかし、叱られている時、こどもは「怖い」「叱られている」ということばかりにフォーカスしてしまい、何をしてはいけないのか、どうすればいいのかなど、本来の内容が頭に入ってこないことがある。
では、モンテッソーリ流ならどう伝えるか。
「ここはお買い物をするところで、たくさん人がいるから、お母さんの横で一緒に歩いて欲しいんだ」と、伝えるようにしたほうが、こどもは自分がどうすればいいかを理解することができる。
モンテッソーリ流「伝える」の3ステップ
ステップ1:事実を伝える 「ここはお買い物をするところだよ」
ステップ2:理由を伝える 「たくさん人がいるから、走るとぶつかってケガするかもしれないよ」
ステップ3:どうすべきかを伝える 「お母さんの横で一緒に歩いてほしいな」
この3ステップで伝えれば、子どもは理解する。そして、次回からは自分で判断できるようになる。
「ダメ」「違う」を使わない — NGワードと言い換え術
モンテッソーリ教育では、いくつかの「NGワード」がある。
NGワード1:「ダメ」「いけない」
なぜNG? 子どもは能力ややり方を否定されると、自分には力が足りないからどうせできないという無力感を覚えるようになり、次は成功しようという意欲をなくしてしまいがちだ。
言い換え例:
- ダメ → 「それは危ないから、こうしようね」
- いけない → 「こうすると良いよ」
NGワード2:「どうして〜なの?」
なぜNG? 「この間も言ったよね?」「どうしてあなたは〜なの?」などはかえって混乱します。子どもは理由を聞かれていると思って一生懸命答えようとするかもしれませんが、大人が欲しいのは理由ではないはずです。
言い換え例:
- 「どうして約束守れないの?」 → 「約束は守ろうね。次は一緒に頑張ろう」
NGワード3:「〇〇しないと怒るよ」
なぜNG? 脅しは、外発的動機(怒られたくないからやる)を生む。自分で判断する力が育たない。
言い換え例:
- 「片付けないと怒るよ」 → 「おもちゃを片付けると、お部屋がきれいになって気持ちいいよ」
モンテッソーリ流 言い換え早見表
| NG | OK |
|---|---|
| 「ダメでしょ!」 | 「〇〇すると良いよ」 |
| 「何度言えばわかるの!」 | 「〇〇してほしいな」 |
| 「片付けなさい!」 | 「おもちゃを戻そうか」 |
| 「早くしなさい!」 | 「〇時までに準備しようね」 |
| 「静かにして!」 | 「小さい声でお話ししようか」 |
「褒める」も、実は要注意
モンテッソーリ教育では、叱り方だけでなく、褒め方も注意が必要だ。
モンテッソーリ教育では、叱ってしつけることや、過度に褒めて伸ばすことは極めて効果が低いと考えます。理由は「叱られるからやろう」「これをやったら親が喜ぶからやろう」と外発的動機づけになってしまったり、褒めてもらうことが報酬となってしまったりするからだ。
NGな褒め方
- 「すごい!」
- 「えらい!」
- 「天才!」
これらは結果だけを褒めている。子どもは「褒められるためにやる」ようになり、褒められないとやらなくなる。
OKな褒め方
たとえば、子どもが描いた絵を見たのであればシンプルに「〇〇を描いたんだね」「本物をお手本にして観察したんだね」「色もきれいに塗ったんだね」と行動やプロセスを認める声かけをする。
プロセスを認める。これが、モンテッソーリ流の褒め方だ。
感情的になってしまったら — 親も完璧じゃなくていい
ここまで読んで、こう思った人もいるかもしれない。
「そんな冷静に伝えられない。つい感情的になってしまう…」
大丈夫。あなたは完璧である必要はない。
これらを試しても気持ちが落ち着かなかったり、考える隙もなく叱ってしまうことも
親も人間だ。失敗していい。大切なのは、後から「ごめんね」と言えることだ。
その姿を見て、子どもは学ぶ。「人は失敗してもいい」「謝ることは恥ずかしいことじゃない」と。
年齢別「伝え方」のポイント
子どもの年齢によって、伝え方も変わる。
0〜3歳:具体的に、短く
「熱いから触らないよ」 「お友達を叩いたら痛いよ。やめようね」
この年齢は、長い説明は理解できない。短く、具体的に、何度も繰り返す。
3〜6歳:理由を添えて
「お友達のおもちゃを取ったら、お友達は悲しいよ。貸してって言おうね」
理由を説明することで、相手の気持ちを理解する力が育つ。
6〜12歳:対話する
「どうしてそうしたの?」(理由を聞く) 「次はどうすればいいと思う?」(自分で考えさせる)
この年齢からは、一方的に伝えるのではなく、対話する。子ども自身に考えさせることで、自己決定力が育つ。
マリア・モンテッソーリが教えてくれた、たった一つの真実
マリア・モンテッソーリが100年以上前に発見した真実。
それは、子どもは、生まれながらに「自分で成長する力」を持っているということだ。
だから、叱る必要はない。怒鳴る必要もない。
ただ、伝えればいい。
「なぜそれがダメなのか」 「どうすればいいのか」 「あなたにどうしてほしいのか」
それを、落ち着いて、尊重を込めて、伝えればいい。
そうすれば、子どもは理解する。そして、自分で判断できるようになる。
明日から、「叱る」をやめてみよう
マリア・モンテッソーリの教えは、難しいことではない。
「叱るな、伝えろ」
たったこれだけだ。
明日、子どもが何かしたとき、いつもなら「ダメでしょ!」と叱るところを、一度深呼吸して、こう言ってみてほしい。
「〇〇してほしいな。なぜなら…」
最初はぎこちないかもしれない。うまくいかないかもしれない。
でも、続けていけば、子どもは変わる。そして、あなたと子どもの関係も変わる。
上下関係から、信頼関係へ。
恐怖から、尊重へ。
マリア・モンテッソーリが100年以上前に証明したように、子どもは、尊重されることで、最も美しく成長する。
さあ、明日から、「叱る」をやめて、「伝える」を始めよう。
あなたと子どもの、新しい関係が始まる。



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